ランニングレッスン「ランニング・ラボ」で、わかりやすい指導をしてくれる山岳アスリート小川壮太選手。壮太選手は、そのランニング経験の豊富さや運動力学の知識に加えて、今も教壇に立ち、そこで培われた「わかりやすい言葉の引き出し」を多く持つことから、その指導には定評があります。
今回、小川壮太選手から最近多いロッカーソール形状やカーボンプレート入りのランニングシューズについて、話しを伺いました。とてもわかりやすいので、必読です。
(R=ルナークス、壮=小川壮太選手)
R:ロッキングチェア状にソールを曲げたロッカーソールが各社から発売されていますが、そのロッカーソールについて壮太選手が感じる効果や利点についてお聞かせください。
今回、小川壮太選手から最近多いロッカーソール形状やカーボンプレート入りのランニングシューズについて、話しを伺いました。とてもわかりやすいので、必読です。
(R=ルナークス、壮=小川壮太選手)
R:ロッキングチェア状にソールを曲げたロッカーソールが各社から発売されていますが、そのロッカーソールについて壮太選手が感じる効果や利点についてお聞かせください。
壮:ロッカーソールは「直立」姿勢に対しては不安定な形状であるものの、ランニングという「前進」することに対しては効果的だと思います。
例えば、従来のフラットなソールでは母指球で蹴り出すために「点でとらえる(母指球位置を探す)」作業が必要でしたが、
例えば、従来のフラットなソールでは母指球で蹴り出すために「点でとらえる(母指球位置を探す)」作業が必要でしたが、
ロッカーソールはその重心移動を補ってくれるため「面でとらえる」ように変換してくれます。
R:それはフォームがきれいなエリート選手だから得られるメリットなのでしょうか?
壮:ランニングフォームは十人十色。いろんなフォームがあって、その人の骨格や体型、運動経験などによってそれぞれ合うフォームが違います。
中でもフォアフット、ヒールストライク、ミッドフット等が代表的なフォームですが、ロッカーソールはどのフォームで乗り込んでも前進する構造になっています。
接地以外にも、真上から捉えられる人、膝を上げない摺り足走法やリーチアウトする人に対しても、前方への重心移動さえ成されればオートマチックに前進できます。
R:なるほど。シューズが良い走り方を誘導して走らせてくれるというのはとても魅力的ですね。
壮:はい、自分で母指球に乗るために操作していた技術的な部分を、ロッカーソールがかなりコントロールしてくれるようになったわけです。
ロッカーソールは、接地のインパクトを分散し、どの位置で乗っても前進をサポートしてくれるので、初心者にとっては「走る」をかなり簡素化し、ケガの予防にも一役買ってくれています。また、エリートランナーにとってもいろんな技術・操作を自動化してくれたおかげで、後半の落ちを抑え、省エネの走りを可能にしてくれています。
R:だとすると、数年前までは「快適」と言われていたランニングシューズが、今では「さらに快適」になっているということですね。
壮:そもそもシューズが「足裏の保護するための道具」だったので、素足に近い軽さが大切にされていましたが、今やロッカーソールなどの様々な技術進化とデータの蓄積によってランニングに不可欠な「ギア」「道具」として認識されるようになりました。このあたり、ロッカーソールの誕生・定着はシューズ界の変革期になると思っています。
R:そのロッカーソールだけではなく、カーボンプレートが入ったシューズも各社から販売されていますが、そのカーボンプレート入りシューズについて壮太選手のご意見、考えをお聞かせ下さい。
壮:カーボンプレートは、南アフリカ 義足のパラ選手、ピストリウス選手の活躍からシューズ投入が再考されたと思います。私の記憶では、30年くらい前にadidasが一度カーボンプレート入りのシューズを出した時にそれを実際に使っていたんですが、靴紐を縛ろうと座ったらプレートが割れる、といったかなりチープなものでしたww
ロッカーソールのローリング効果は、へたってきた時また体重が重い人の使用時にはシューズの剛性が低下し、機能しにくくなります。しかし、ロッカー形状のカーボンが1枚入るだけでかなり前方に転がる機能を維持・向上させていると思います。
プレートをしならせ、反発で推進力を得るだけでなく、ロッカー機能を引き出し感じやすくしたこともカーボンプレートの功績だと思います。
R:カーボンプレートシューズはエリート選手が使うレース用というだけではなく、初心者がロッカーソールのシューズを長く活かすためにも有効なんですね。
壮:足裏全体で叩きつけるような走法に対してはロッカーやカーボンの特性を活かせない感じになってしまいますが、それでもかなり広範囲の選手層の競技力向上に役立っているはずです。
R:カーボンプレートの形状は各社で違いがありますが、それについてどうお考えですか?
壮:プレートの形状は、ナイキのような純競技仕様の1枚のシャモジ型。ホカのような長距離・ウルトラ向きのV字型が代表的です。ノースフェイスのカーボントレイルシューズやホカが開発しているカーボントレイルシューズのカーボンは、いずれもV字型。
地面からの反発が得にくいトレイル用は、プレートの剛性を下げ、反発力を多少捨ててもV字型で広範囲に安定感をとるかたちにしてます。
これ以外にも各社が理想とするカーボンプレートのタイプが出てきていますので、今後は自分の走力に見合った形状を選んで使い分ける様になってくるかもしれません。
R:巷ではナイキ社のカーボンプレートシューズが注目されていますが、「CARBON X 2」を履くホカオネオネアスリートの小川壮太選手がナイキ社と比較してどのような違いを感じますか?
壮:ナイキのカーボンプレートは、比較的プレートのカーブが均一なのに対して、ホカのプレートはトゥ部分に行くにつれカーブが緩むため、「点」を探しやすいんです。
ナイキほどの反発は少ないんですが、その分どこで接地しても「点」まで誘導してくれる「面」感覚があるので、的外れなタイミングで加圧するよりはいい。ロング・ウルトラ向きなのはそのあたりが理由ですね。
R:それから、最近お客様の中で「カーボンプレートシューズは使いこなせない」「足を痛めた」という声を聞くことがありますが、それは何が問題だと考えますか?
壮:カーボンプレート入りシューズの使い方もトップ選手は曲げて使う、一般ランナーはカーボンのカーブに乗っかって走るような使い方が推奨されてくるのかなと思います。
特に、アルファフライなどに搭載されたカーボンプレートは、硬くて厚いため深くしならせるには、かなりしっかりとピンでとらえて加圧しないと曲がりません。
調子がいい時やまだフレッシュなうちは割とピンで捉えられるんですが、疲れてくるとだんだん難しくなり、そこを無理をして蹴ろうとすると筋肉に負荷がかかり過ぎた結果、ダメージが来てしまうのだと思います。
R:とてもわかりやすいご意見でした。これからもアドバイスを宜しくお願い致します。今日はありがとうございました。
壮:ありがとうございました。